ハラスメント対策はお済みですか

2019年5月にパワハラ防止法(正式名称:改正労働施策総合推進法)が成立し、大企業では2020年6月から、中小企業は2022年4月から、職場におけるパワーハラスメント防止に取り組むことが義務化されました。パワハラ防止に適切な措置を講じていない場合には、是正指導の対象となります。

なかなか進まなかったパワハラ防止の義務化

パワハラ防止が義務化されるのが遅れた大きな要因の一つに「指導との境界」線を引くことが難しいことが挙げられます。注意や指導をされて喜ぶ人は少ないと思います(叱責されることをバネにして成長するケースもありますが、現代では稀有な存在ですね)。指導を受けることは少なからずストレスになりますし、人によっては傷つき体験にもなります。

それを以って「パワハラだ!」と言われてしまうと管理職は指導ができなくなるのでは・・・そのような懸念があり、経済界の理解が得られにくい背景がありました。

しかし、令和3年の精神障害による労働災害補償状況を見ると、支給決定したのが629件で、そのうち125件はパワーハラスメント、60件はセクシュアルハラスメントが占めていました。つまり、精神障害による労災認定のうち、ハラスメントが原因となっているのは、29.5%、実に3割を占めているといった状況です。こういったことから、ハラスメントを放置することはこれ以上できないところまで来ていたのです。

精神障害の労災補償状況
https://www.mhlw.go.jp/content/11402000/000955417.pdf

パワハラだけ・・・と思うなかれ

パワハラ防止法と呼ばれていますが、中身をよくよく読むとセクシュアルハラスメント等の防止対策の強化(セクハラに起因する問題に関する国、事業主及び労働者の責務の明確化や、労働者が事業主にセクハラの相談をしたこと等を理由とする事業主による不利益取扱いを禁止)も謳われています。さらには、「パワーハラスメント及びいわゆるマタニティハラスメントについても同様の規定を整備」とあります。

従来のセクハラ防止については、労働者がより相談しやすい環境を作ること、そして、セクハラの中でマタハラについても言及されています。また、セクハラで忘れてはいけないのが、SOGIハラスメント(性的指向性や性自認に対して差別的な言動を行うこと)も含まれることです。

今回のパワハラ防止法は、上司や先輩による指導などの業務に関するコミュニケーションだけでなく、様々な価値観、生き方に対して認め合い働きやすい環境づくりを目指したものであると捉えるとしっくりとくるのではないでしょうか。

では、何をすれば良いのだろうか?

就業規則への明記や事業主からのパワハラ等を許さないというメッセージを発することは必須です。ただ、これは最低限の話であり、組織内でハラスメントを防止するための取組は「研修の実施」、「相談窓口の設置」の2つです。

研修の実施

大事なことは、職場内の言動が「ハラスメントに該当するか否か」ということを知ることではなく、「日常の関係性の延長線上にハラスメントが存在する」ことを知ってもらうことです。

信頼関係が築くことができていない、崩れてしまった状況では互いに相手の真意を汲むことが難しくなり、コミュニケーションの量も減り、ちょっとしたことがトラブルに発展します。そのような関係性が固着し、すれ違いが続くことで不満が溜まり、ある日ある出来事をきっかけに「ハラスメントだ!」と労務問題になることが多いのです。

少しの配慮と気遣い、それがハラスメントを防ぐためのコツです。こういったことを定期的な研修で学びましょう。

相談窓口の設置

社内の管理部門が窓口になるケースも多いですが、管理部門に相談する=会社にバレてしまう、問題が大事になってしまうと感じてしまい社員からすると相談へのハードルが高いのが現実です。

外部に相談窓口を設けることでそのハードルを下げることができ、さらには、第三者に話すことで気持ちを整理したり、どのような対応が良いのかを冷静に考える機会となります。加えて、社内で相談を受ける場合、担当者の心理的負担が相当に高いことを配慮する必要があります。相談を受けても「会社にはまだ開示したくない」と言われると担当者が相談内容を抱え込むことになります。

また、時には相談を受ける中で組織に対する不満や不信を担当者が浴びることもあります。社員および社内担当者の双方にとって外部の相談窓口はメリットが大きいと感じます。

カウンセリングの現場から想うこと

カウンセリングを行う際には、指名されて来談される方(長時間労働やストレスの高い部署、入社年次等)と自発的相談を申し込む方に分かれます。

自発的に相談を申し込む方の半分くらいが職場の人間関係で悩んでいる印象があります。そして、上司との関係で悩み、ハラスメントのような関りが垣間見られる(主訴がパワハラのこともある)ケースでは、相談者は非常にストレスフルであり身体症状や精神症状が見られ、医療機関の受診勧奨を行うことも多々あります。

人事異動で上司が変わった後でも「以前のように新しい上司にも叱責されるのではないか」と不安になったり、以前の上司を社内で見かけただけで「動悸が激しくなる」など尾を引くことがあり、人間関係のトラブルは非常に深く人を傷つけることを日々感じています。

逆に、上司や同僚との信頼関係があると、業務でしんどいときも周囲を頼りながら、時には周囲を助けながら粘り強く働ける方が多いです。

今回のパワハラ防止法対応をきっかけに職場の人間関係や他者を認める風土づくりが促進されることを願っています。