不確実な時代に求められる「ネガティブ・ケイパビリティ」とは?

「急いで答えを出さない」能力?

昨今、「ネガティブ・ケイパビリティ(Negative capability)」という言葉が注目を集めています。ネガティブ・ケイパビリティとは、一言で言えば「急いで答えを出さずにいられる能力」のこと。この言葉の生みの親である19世紀のイギリスの詩人キーツは、ネガティブ・ケイパビリティを「事実や理由をせっかちに求めず、不確実さや不思議さ、懐疑の中にいられる能力」と定義しています。これは、コスパやタイパといった、現代社会で重要視される価値観とは真逆の概念と言っても良いかもしれません。

効率重視の現代において、なぜ今、この言葉が注目を集めているのでしょうか。

「効率重視社会」はもう限界?

「ネガティブ・ケイパビリティ」についてよく知るために、まずは、その逆の能力「ポジティブ・ケイパビリティ」について考えてみましょう。「急いで答えを出さない」の逆ですので、「できるだけ早く答えを出す能力」と表現できるでしょうか。「スピーディに情報を収集する能力」「分析する能力」「計画を立てる能力」そして「問題解決能力」等、ビジネスにおいて重要なスキルは、どれも「ポジティブ・ケイパビリティ」と言えるでしょう。

しかし、あまりにもスピーディーさを求められるが故に、「本当はよく分かっていないのに、『分かったフリ』でヒヤヒヤしながら物事を進めざるを得なくなった」というご経験、皆様も一度や二度はあるのではないでしょうか。他にも、「本当は根本的な見直しが必要だけれど、時間が無いから『とりあえずの解決策』を積み重ねた結果、手が付けられない状態に…」等も、今の職場の“あるある”かもしれませんね。

確かに「スピード」は重要です。しかし、スピードを重視するあまり、じっくりと考えることなく仕事をこなしていたり、とりあえずの知識でなんとかその場を凌いでいることへのぼんやりとした不安感が、現代社会に広まりつつあるのかもしれません。そんな中、「急いで答えを出さない」ことを良しとする姿勢は、私達をどこかほっとさせてくれるようにも感じます。

「分からない」ことは人を不安にさせる 

また、私達が急いで答えを出したくなる背景には、そもそも「分からない」という状態そのものが、人を不安にさせるという側面もあります。カウンセリング場面においても、多くのクライエントが、カウンセラーに「どうしたらいいですか?」と答えを求めますが、このことも、私たちにとって「分からない」状態が如何に苦しいものかを示しているでしょう。

そんな時、さっとスピーディーに答えを示すことが出来れば話は早いですが、クライエントが心の底から悩んでいる事柄に対し、カウンセラーが簡単に答えを出せるはずもありません。

大切な問題と向き合う時ほど、「急いで答えを出さない能力」=ネガティブ・ケイパビリティが重要と言えるのではないでしょうか。

VUCA時代の到来とともに

スピードを求める時代の要請と、「分からない」不安から解消されたいという人間本来の欲求が相まって、私たちはこれまでずっと「ポジティブ・ケイパビリティ」を成長させてきたと言えるかもしれません。

しかし、私たちは今、何が起こるか分からないVUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)と言われる時代を生きています。特に「新型コロナウィルス」への対応を通して、私たちは「世の中には簡単には答えが出ないものがある」ということを肌で感じ、知らず知らずのうちに「ネガティブ・ケイパビリティ」を実践してきたのではないでしょうか。

VUCAの時代において、不確実な場面にスピーディに判断を下していく「ポジティブ・ケイパビリティ」が良いのか、答えを急がずじっくりと状況を見極める「ネガティブ・ケイパビリティ」が良いのか、答えは分かりません。しかし分からない今だからこそ、私たち一人ひとりが、答えを急がず、自らの考え方や働き方、生き方を問い直してみることが大切なのかもしれないですね。