「心理的負荷のある出来事」を知っておくことで、その出来事に直面したときに「この出来事はストレスになるのだ」と心の準備ができるようになります。あとに起こることが分かっているとショックや驚きが少ない、というのは経験上誰しも分かっていることですが、もう少し科学的に説明してみたいと思います。Nature Communications に投稿された論文を参考にしました。
Computations of uncertainty mediate acute stress responses in humans
https://www.nature.com/articles/ncomms10996
この論文では、人間が「予測できるストレス」と「予測できないストレス」を受けたとき、それぞれの反応の大きさを計測し、数値化しています。
実験の概要
この実験では、45名の被験者に画面上でゲームをさせて、ストレス反応を評価しました。まず、被験者に画面上で岩を選択させます。そして、その岩の下にヘビがいれば手に電気ショックを与えます。そのときのストレス反応を計測するという実験です。ストレスが高いか低いかは、被験者の主観的な報告と、客観的な生理的指標の変化(指先の発汗、瞳孔の直径)で計測したようです。
実験中、選んだ岩にヘビがいる確率を、26〜38試行ごとに10%、30%、50%、70%、90%の間で変化させ、320回繰り返したところ、50%の確率でヘビがいる(=電気ショックを受ける)試行が最もストレス反応が大きくなったそうです。
50%の確率というのは、予測ができずヘビがいるかどうかわからない状態なので、不確実性が高い状態と言えます。つまり、不確実性がストレス反応に影響を与えることがこの実験結果で示されました。
「心理的負荷のある出来事」に置き換えると
ある出来事に直面したとき(=岩を選択したとき)に、心理的負荷があるかないか(=ヘビがいるかいないか つまり 電気ショックを受けるか受けないか)が予測できない状態よりも、心理的負荷のある出来事である(=この岩の下には確実にヘビがいて電気ショックを受ける)と予測できているほうが、不確実性から起こるストレス反応への影響は少なくなる、と解釈できると思います。
つまり、将来「心理的負荷のある出来事」が待っていること、そしてその出来事に遭遇すればストレスになることが分かっていれば、いざその出来事に遭遇したときに、「このあとどうなるかわからないという不安」からくるストレスを軽減できるのではないでしょうか。このことから、労災認定要件にある「心理的負荷のある出来事」を事前に知っておく価値はあると言えます。