ストレスチェックの実施事務従事者の方は、従業員の方に「ストレスチェックを受けてください」とお願いする立場だと思います。そのようなとき、このような反応をされることもあるのではないでしょうか。
- 面倒くさい
- 時間がない、時間がもったない
- 毎年やっているけど意味ない
- これを受けてもなにも良くならない
- 自分のストレス状況には問題がないので不要である
ストレスチェック受検を急かすのは有効なのか
実施事務従事者の方は、ストレスチェックの実施期間中、受検率が気になってしまうかもしれません。あまり受検率がよくない場合は、問診票受検者の方に「早く提出してください」と急かしたり、Web受検の方にも一声かけたりしているのではないでしょうか。(弊社フィスメックには、Webの未受検の方には受検勧奨メールを送るサービスもあります。)
ただこういった督促は、「受けようと思っていたけど、うっかり忘れていた」という方には有効ですが、元からあまり受ける気のなかった方に対しては、受検する気をなくす原因になるかもしれません。
ストレスチェックの実施・受検は必須なのか
ストレスチェックは法制化・義務化されており、50名以上の常時雇用者をかかえる事業場は、会社として「実施」しなければいけないことになっています。しかし、従業員個人が「受検」すること自体は義務にはなっていません。問診票が配られたり、Web受検のメールが来ても、受検するかどうかは個人の自由です。そのため「今日中に絶対提出してください」「今日中に受けなければ◯◯です」といった強制はできないことになっています。
実施事務従事者としてはなるべく受検してほしい
実施事務従事者としては、なるべくたくさんの従業員に受けてほしいはずです。その理由としては次のようなことからです。
- 自分のストレスに気づいてほしい
- よりたくさんの従業員での集団分析をしたい
- 労基署への報告で指摘をされたくない
三番目の労基署への報告というのは、ストレスチェックが終わった後に所轄の労基署に提出する「心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書」のことです。ここには、受検率の分母となる「在籍労働者数」と分子となる「検査を受けた労働者数」を書く欄があります。「在籍労働者数」の割に「検査を受けた労働者数」があまりに少なすぎると、労基署から何か指摘をされる可能性もあります。
労基署への報告書の様式はこちらにあります。
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei36/24-download.html
受検者による不誠実回答
実施事務従事者の熱意に負けて、従業員が受検してくれても、質問文も読まずに縦にマークしたり、同じ位置をクリックし続けて、すべて左端や右端などで終わらせてしまう可能性があります。そういった回答をアンケート調査においては「不誠実回答」「不真面目回答」と呼びます。そういうデータを含んでいると、矛盾のある不思議な個人結果になってしまいます。
もしこれがストレスチェックではなく、何かの感想を聞くようなアンケートで起きたことなら、不誠実回答ははじいて集計できます。また、矛盾が見つかるような質問をわざと設定して不誠実回答かどうかを判断する、といった手法を取る場合もあります。
しかし、現行のストレスチェックのルールには、特定の受検者の回答を見て、場合によっては集団分析から除外してもよいという記述がありません。それを許可してしまうと、高ストレス者を集計しないで組織のストレス度が低いように見せかけることもできてしまうので、おそらく許可されることはないでしょう。
不誠実回答の例…すべて左端
ストレスチェックの四つの選択肢のうち、すべて左端で回答すると、男性の場合はこのような個人結果になります。個人結果は、外側に行けばいくほど良い結果で、内側に行けば行くほど悪い結果です。

Aの「ストレスの原因と考えられる因子」では、「働きがい」「仕事の適性」「仕事のコントロール」が良いのでイキイキと働いている方のようですが、Bの「活気」が非常に悪くなっています。一方で、Aの「仕事の量的負担」「仕事の質的負担」「身体的負担度」「技能の活用」「職場環境」が非常に悪いのでクタクタかと思いきや、Bの「疲労感」「身体愁訴」が非常に良い結果となっています。ものすごく体力のある方なのでしょうか。
Cの「ストレス反応に影響を与える因子」では、「上司からのサポート」も「同僚からのサポート」も良い結果なのに、Aの「職場の人間関係」のストレスが非常に悪く、矛盾しているように見えます。部下や他部署の人からストレスを受けているということでしょうか。
不誠実回答の例…すべて右端
ストレスチェックの四つの選択肢のうち、すべて右端で回答すると、女性の場合はこのような個人結果になります。この個人結果は、「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」の「高ストレス者を選定するための方法」のp.44 「評価基準の例(その2)」の計算では高ストレス者になります。

Bの「ストレスによっておこる心身の反応」では、「活気」だけ非常に良い結果ですが、「イライラ感」「疲労感」「不安感」「抑うつ感」「身体愁訴」は非常に悪い結果となっています。イライラしてクタクタで不安で体にも来ているなら、その「活気」は本当なのか気になります。
より多くの人に正しく受検してもらうために
では、なるべく多くの受検者に、不誠実回答でなく自分自身の回答でストレスチェックを受検していただくために、どのようなことが必要でしょうか。まず、受検者にストレスチェックの意義について説明をします。毎年のことですが、年に1回のことなので忘れてしまう人も多いはずです。
- 自身のストレス度合いに気づくためのツールであること
- 受検することでセルフケアの情報が得られること(フィスメックでは受検後にアドバイスシートを閲覧できます)
- 高ストレス者となった場合は医師の面接指導を申し出られること
- 回答や個人結果は、実施事務従事者と産業医などの実施者しか閲覧できないこと(医師の面接指導を受けるとなった場合は、会社の人事の方などが見ることがあります)
また、受検すると戻ってくる個人結果(紙面・Web画面)のサンプルを見せたり、集団分析の結果を受けてこれまでどのような取り組みをしたかなどを具体的に情報公開することで「ストレスチェックを受けてもよいかな」と感じていただけるようになるのではないでしょうか。